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フェロモンを持たない令嬢は、氷の軍神に愛される ——婚約者と妹に捨てられ殺されかけた私が、冷酷な軍神の凍った心を溶かすま
フェロモンを持たない令嬢は、氷の軍神に愛される ——婚約者と妹に捨てられ殺されかけた私が、冷酷な軍神の凍った心を溶かすま
Author: 柳 雪音

第1話 縁香[フェロモン]を持たない丙[オメガ] (上)

Author: 柳 雪音
last update publish date: 2026-08-11 22:03:15

その夜——

誰にも知られることなく、二人はたった一度だけ、運命へ身を委ねた。

(私は……縁香フェロモンを持たない丙オメガのはずなのに……)

辺りには、濃密な花の香りが満ちていた。

薔薇よりも薔薇らしく。

芍薬よりも芍薬らしく。

百合よりも百合らしい。

この世のものとは思えないほど、甘く官能的な香り。

(それに……こんなに……溢れて……)

自分の身体が、自分のものではないようだった。

丙オメガには劣情ヒートがある——そんな話は知っていた。

けれど。

(どうして、いきなり……?)

熱は身体の奥から次々と湧き上がり、とても理性では抑えきれない。

頬が熱い。

息が苦しい。

指先まで震えてしまう。

(こんな姿……見られたくない)

羞恥に耐えきれず、遥香の瞳から涙が零れ落ちた。

その雫を、男は愛おしそうに舌先で掬い取る。

「……っ」

ぞくり、と背筋が震えた。

胸の奥が甘く痺れ、膝から力が抜けそうになる。

(なんて……)

浅ましい。

そう思うのに、本能は歓びに震えていた。

「……見ないで、ください……」

震える声で懇願する。

こんな自分は、自分ではない。

「分かった」

男は穏やかな声で答えた。

乱れた髪を、そっと指先で整える。

その優しい仕草だけで、また身体が震えた。

「……はぁ……」

思わず熱い吐息が漏れる。

男は静かに遥香の手を取り、その甲へ口づけを落とした。

「俺は、一度守ると決めたものは、必ず守る」

低く、揺るぎない声。

「——君にもそう誓おう」

月明かりの下で見つめるその瞳は、氷のように静かでありながら、奥底には激しい炎を宿していた。

その真剣な眼差しに、遥香は小さく頷く。

「……分かりました」

自分でも信じられないほど素直な声だった。

「あなたに……この身を委ねます」

その瞬間、自分の大胆さに息を呑む。

けれど身体は、心よりも正直だった。

気づけば両腕は自然と男の首へ伸び、その温もりを求めていた。

(……私の本当の姿は、こちらなのかもしれない)

花の香りが、さらに濃く咲き誇る。

二人は互いを求め合い、運命の糸を手繰り寄せるように、その距離を失っていった。

◇◇◇

翌朝。

遥香はゆっくりと瞼を開いた。

「ここは……一体どこ?」

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